6章 『それから...』

 

激闘の後ということもあって、僕と咲良さんはあの後そのまま互いに気を失ってしまったらしい。
目を覚ましたのは翌日の日曜日、午後3時だった。
「ん? 起きたか択人」
日野が我が物顔で居座っているので、どうやらここは僕の家らしい。
「日野……僕は……そうだ、咲良さん、咲良さんは!?」
「慌てなさんな、教えてやるって」
僕の午後の朝食を作りながら、日野はあの後の事を教えてくれた。
〈アラゴの装甲〉、僕らの足元に散らばったアレは、連絡を受けた炎児さんたち警察が現場に駆け付けた時には、もうなくなっていたらしい。
研究所から盗み出した犯人が同じく盗み出したのではないかという見解の元、今警察が総力を挙げて捜索中とのこと。
そしてどうやらその犯人は、ウイングたち早稲田戦士が長いこと戦っている『タカダノバーバリアン』なる組織とつながっているらしく、ウイングは今警察の捜索に協力中。
…どうりで姿が見えないわけだ。
そして咲良さん、光ヶ丘咲良。
彼女の衰弱は激しかったが、病院で一週間も安静にしていれば元の健康体に戻れるらしい。良かった。
――彼女は多くの人間を傷つけた。本来ならかなり重い罰が処されるところだろう。しかし……

「無罪放免?」

「そ、お偉いさんの判断だと。その、なんとかの装甲が人間にとってあんなヤバイもんだってことを隠蔽したいんだろうよ。全く腐ってるね」

「でも、そのおかげで咲良さんは……!」

「ただし、だ。その代わりに、装甲に関わっていた期間の光ヶ丘咲良の記憶は消去されるらしい」

「は……?」

「そんなこと、できるわけないって思うだろ?これが出来るんだと、現代科学万歳って感じだな」

「……」

「その期間の彼女の記憶には、それまで通り普通の女子大生として生活していたっていう記憶が刷り込まれるらしいぜ」

「つまり、その間に出会った僕の事も……」

忘れる。彼女の記憶から、僕はいなくなる。

「ま、少し遅めのアバンチュールだったってことでさ。……あんまり引きずんなよ」

「……分かってるさ」

「うん? 歯切れがいいな。もっと駄々こねるかと思ったんだが」

「そりゃあ寂しいけど、なんか……彼女にとってはそれが一番良いんじゃないかって思う」

「へぇ、そりゃずいぶん大人なこって」

日野はどこかつまらなさそうにそう言った。
記憶が消えたからと言って、あの夜のぬくもりは決して消えない。僕にはそういう自信があった。
あの触れ合いには、頭だけじゃ分からない力があった気がするんだ。

「また恋がしたくなったら、もう一度ゼロから自分から会いに行けばいい。そうでしょ?」

「……ま、落ち込んでないのは、良いことだよな。ほれ、飯だ」

日野が作ってくれたのはジャガイモと玉ねぎの味噌汁、それと目玉焼きだった。
お腹が減っていたのだろう、僕はすぐさまテーブルにつく。
今日もご飯は美味しかった。あんなことがあった後でも、ご飯はしっかり美味しかった。
僕は夢中で食べ進めた。食べて、食べて、食べて……
気がついたら涙が止まらなかった。
涙の塩味が混ざったご飯は、それでもまだ美味しかった。

 

 

〈アラゴの装甲〉を回収した悪の組織、タカダノバーバリアンの基地で、今回の窃盗事件の主犯である傀儡子ちゃんは笑っていた。

「〈アラゴの装甲〉、やっとこれに人間の怨念を記憶させることに成功いたしましたわ!」

「これでカゲロウが手に入れた設計図が役に立つってことだよな!!」

彼女が抱える熊の人形、〈ベティちゃん〉も嬉しそうにそう語る。

「そう……あとは私たちタカダノバーバリアンの科学力を以って、人間の体無しで〈アラゴの装甲〉を起動させる機械生命体を作り上げれば――」

「タカダノバーバリアン最強戦士の出来上がりってわけだ!」

傀儡子ちゃんは目の前の〈アラゴの装甲〉を見つめ、笑う

「ふふふ……人間の醜く強い感情、そこから生まれる執着と、最強の機械の体を併せ持つ存在……
未だかつて、わたくし以外にこんなものを創造出来た人がいらしゃって!? いいえ、いません!!
わたくしの力で生み出すのよ、最強の戦士を!」

「傀儡子ちゃん! 名前決めようぜ名前! こいつのさ!」

「そうね……よし、決めましたわ。あなたは『アーグネット』。
その全なる機械の体に、人間の闇を武装して、すべての敵を蹴散らすのよ……!!」

 

...早稲田祭2017大隈講堂前ヒーローショーの外伝SPムービーに続く

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